村井弦斎との出会いについては3年前にも語りましたが、
弦斎研究17年。 - 核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ (hatenablog.com)
今年で弦斎研究20年にあたることもあり、あらためて語ることにします。
最初に弦斎を扱った時のゼミ発表のお題は、「感覚表象とメディア」でした。
というと小難しいですが、私はそれを「美味しい料理」と「美味しそうな料理についての文章」、というふうに解釈しました。『食道楽』中のシュークリームやアイスクリームを例に、当時の日本人にはあまりなじみのなかった「クリーム」という食材を、弦斎がいかに日本人になじませ、美味しそうに表現しているか、といったことを論じました。評判は上々でした。
その後、『匿名投書』『釣道楽』で学会発表を行い、『小説家』『写真術』で論文を書きました。評価はさまざまですが、『写真術』論をのぞく3篇は博士論文『明治の平和主義小説』に収録し、学位取得に至りました。
現在の関心事は、弦斎最後の小説『小松嶋』です。『食道楽』の頃は戦争に協力的だった弦斎は、この『小松嶋』で反戦論に転じます。そして随筆『感興録』でも世界平和を訴えるに至ります。そのあたりの機微を知りたく思い、神奈川近代文学館まで『小松嶋』の生原稿を見学に行ったりもしました。
もう一つ関心がある作品は、黒岩比佐子さんの評伝でさえ言及されていなかった、『北海道毎日新聞』に連載された初期小説『水の月』です。改良手品、というと古めかしいですが、プリンセステンコーのように華麗なイリュージョンを観せる女性マジシャンが、身分差別の壁を越えて恋人と結ばれる物語です。反差別というテーマは反戦と並んで私の関心事であり、これもいつかは作品論を書きたいと願っています。