核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

笛の名人でない者が名人と思われようとしたら―クリティアス対テラメネス決着編

 クセノフォーンの『ソークラテースの思い出』(岩波文庫)より、ソクラテスの発言。
 
 「笛の名人でない者が名人と思われようとしたら(略)名人は大勢の人々が賞讃するから、彼も大勢の喝采連を雇わなくてはならない。しかし、演奏はもちろんどこでも引受けてはならん(略)苦労な、そして損の行く、笑うに堪えた生涯と言えないか。同様に、もし名将軍または名船長でないのに、そう見せかけようとする者があったら、彼はどのような目に逢うかを見よ」
 
 ・・・というわけで、クリティアス専制の末路について。同じくクセノフォーンの「ヘレニカ」より。バルバロイ様、訳を引用させて頂きます。
 
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 さて、彼(引用者注 クリティアスへの批判者テラメネス)がこう言い終わり、評議会も拍手喝采、騒然となって、好意的なことがはっきりしたので、 クリティアスは、彼に関する採決を評議会に任せては、取り逃がしてしまうと判断し、また、そうなれば致命的だと考えて、寄り合って「三十人」と何事か打ち合わせをすると退出し、懐剣を携行している連中に、評議会にはっきり見えるよう、間仕切りの上に立つよう命じた。
 
 クリティアスは評議会の事前に、配下の「若者たちに、短剣(xiphidion)を脇の下に隠し持って出席するよう告げ」ていたのです。

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そうしておいて、再び入場すると発言した。
 「わたしは、おお、評議会のみなさん、指導者たる者は、友たちが騙されているのを眼にしたら、ほうってはおかないのが務めだと考える。だからわたしもそれをなすつもりである。というのも、ここに立っている人たちが、寡頭制を公然と破滅させるやつをわれわれが容認しようものなら、ほうってはおかないと言っているからである。ところで、新しい法律の規定によれば、「三千人」に属する者は、あなたがたの評決によらざるかぎり、誰ひとり死刑になってはならないが、名簿に外れた者たちの死刑の決定権は「三十人」にあることになっている。そこで、わたしは」と彼は言った、「このテラメネスを名簿から削除しよう。これは、われわれ全員によって決定されたことである。それゆえ、この男を」と彼は主張した、「われわれは死刑とする」。
 
 「削除」!新世界の神でも作るつもりっすか。
 
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すぐに「三十人」の伝令役が、「十一人」にテラメネス捕縛を命じた。そこで彼らが手下たちといっしょに入場し、これを嚮導していたのは、中でもとりわけ向こう見ずで厚顔無恥サテュロスであったが、クリティアスは言った。
 「おまえたちに引き渡すぞ」と彼は言った、「法によって有罪判決の下ったこのテラメネスを。おまえたちは捕まえて、「十一人」として略式起訴して、必要な手続きをとれ」と。 (略)
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彼(テラメネス)について次のような話が一つ伝わっている。サテュロスが、静かにしないと痛い目に遭うぞと言ったところが、彼が質問した。「静かにしたら、痛い目に遭わないですむのか」と彼が言ったと。また、刑死するよう強いられて毒人参を飲むときも、彼は最後の一滴をコッタボス遊び*のように飛ばして言ったと伝えられている。「これを美しき クリティアスに捧げる」と。
 ※ 酒宴(symposion)の時に、酒盃(kylix)に残った残滴(latax――おそらくは酒の澱のごときものであろう)を、標的に飛ばす遊戯の道具。また、遊戯そのものをもいう(バルバロイ様の別項より転載)。
 
 まさに外道どくさいスイッチを握ったのび太と化してますクリティアス。
 修羅の道を行くクリティアスは、ついにかつて自分をぶた呼ばわりしたソクラテスにも牙をむくことになります。
 プラトンの対話編「カルミデス」や「プロタゴラス」に出てくる若きクリティアスはひとかどの見識ある論客だったのに、いったい何をどこで間違ったんでしょうか。
 名人と思われようとした名人でない者の行く末、もう少し見届けようと思います。