核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

井伏鱒二の盗作を絶賛する小林秀雄

 今日あたり小林秀雄論を完成させるつもりなので(休日なのです)、論文には使えない資料をいくつか紹介していきます。
 「文藝月評 ⅩⅨ」(第五次『小林秀雄全集 第七巻 歴史と文学・無常といふ事』収録。『東京朝日新聞』 1940(昭和15)年1月とありますが、日付は書いてありません)
 
 井伏氏は「ジョン萬次郎」の漂流譚で直木賞を得たが、通俗小説家にはなれない人である。この人のなかにある詩人が許さない。この作者の機知とか諧謔とか人は直ぐ言ひたがるが、井伏氏のそういふ才能は、世間の苦がい経験を詰め込んだ風呂敷包みに首根つこを引かれる様に引かれている。
 
 ・・・この文芸月評19の中では、小林秀雄が手放しの絶賛を与えているのは井伏鱒二だけです。
 ちなみに同年二月の『文藝春秋』に発表した「清君の貼紙絵」では、無名時代の山下清(ご存知ですね)の絵をこれ以上ないというぐらいに罵倒しています。まあ、私も絵のよしあしはわからないのですが、文章力に関していえば、山下清小林秀雄では、兵隊さんの位でいうと大将と二等兵ぐらいの違いはあるんだな、ということぐらいはわかります。人を本当にしあわせな気分にする文章の力というものは、東大や名古屋大に行ったぐらいで身につくものではないのです。
 なお、「文藝月評 ⅩⅨ」の初出は未見。『小林秀雄全集 補巻Ⅱ 註解 追補 中』(新潮社 2010(平成22)年)によれば異同なし・・・ということは、前例からして異同がある可能性を疑う余地はあるわけですが、正直どうでもいいです。今書いてる論文を書き終えたら、当分は小林秀雄とは係わり合いになりたくない気分なのです。