核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

シャープ『武器なき民衆の抵抗 その戦略論的アプローチ』(れんが書房 1972 原著1970)

 「本書がまず最初に主張するのは、暴力と戦争に代替できるような非暴力的闘争の技術が現に実在するということである」(原著者 日本語版に寄せて)。
 こういう明快な文章を読むと、私は一気に気分が晴れるのです。これでこそ読書。
 軍事力によらない、市民を主体とする非暴力的抵抗の実例と理論を扱った平和論の古典、ジーン・シャープの『武器なき民衆の抵抗 その戦略論的アプローチ』(小松茂夫訳 れんが書房 1972 原著1970)を紹介します。
 まず実例。古くは紀元前494年に行われた貴族に対してのローマ平民の反抗から、執筆時点である1970年のカリフォルニアでのぶどう園労働者のストライキに至るまで、85の非暴力的抵抗のケースを個人レベル(IND)・50人以下の小規模レベル(SM)・大規模集団レベル(LG)に分類し紹介しています。あれがないこれが抜けてるといった批判はあるかと思いますが(日本については、1956年の砂川アメリカ空軍基地反対運動があげられるのみです)、非暴力運動が決して近現代のみでも西洋文明のみでもないことを実感させてくれるリストです。
 そうした非協力運動やストライキが核時代に通用するのか、という疑問はあるかと思われます。シャープも「ひとたび核爆弾が落下しはじめるならば、それは何らの防衛手段も提供しない」ことは認めています。問題は、非暴力的抵抗が、「その国に対する核攻撃の開始を促進することになるか、それとも、阻止することになるか」という点にかかっているのです。
 では非暴力は、核武装よりも有効な抑止力になりえるでしょうか。そうするために、シャープは「政治的柔術」と「脱武装」という方針を掲げています。抑圧者(警察・官僚・軍隊)の側に疑問と共感を起こさせるまでに、非暴力的抵抗を断固として貫く「政治的柔術」。そして軍隊がもはや必要のないものであることを証明し、国際的規模で軍備を廃絶していく「脱武装」。
 空想的と思われるかもしれませんが、ノールウェイ(ノルウェー)はスポーツ・ストライキで1945年の終戦までドイツに抵抗し、コスタリカは(これはシャープはふれていませんが)1949年の憲法で軍隊廃止を実現しています。平和主義国家は日本だけではないのです。