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トルストイは戦後に日本人の精神状態を徳富にたずねた。徳富が、戦争は悲しむべきものだが、戦争が人を真面目にさせたのも確かである。東郷平八郎(とうごうへいはちろう)のような今度の戦争で難局に当った人々はクリスチャンではないが敬虔(けいけん)で真面目な人間である、と語った。すると、トルストイの白い眉の下で目が火のような光を発した。そしてトルストイは、いや、自分はそう思わない。東郷等が敬虔な人間ならば、その敬虔だということは、狭隘(きょうあい)な、事理を弁(わきま)えない頭を持っているということを証明しているだけだ、と言った。(略)徳富はそのトルストイの言葉に不満であった。しかし後で考えると、大馬鹿者と叱られたのだと気がついた。
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