核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

定九郎の印籠持

 「絶対的非戦論」を訴えた明治の作家、木下尚江が日露戦争下に連載した小説『良人の自白』に出てくる言葉です。赤十字の寄付金募集活動に対して、主人公はこうつぶやきました。
 歌舞伎にはうといのですが、「定九郎」というのが強盗殺人犯の斧定九郎だとすれば、「定九郎の印籠持」とは、「強盗殺人犯を正当化する者」という意味かと思われます。
 戦地での医療活動を行なう赤十字に対して、ずいぶんな言い様だと思われるかもしれません。しかし、断言しますが、木下尚江という人は、戦地での負傷者など放っておけばいい、と考えるような冷酷な人では決してありません。
 ただ、兵士を治療するという行為は、ふたたび戦闘可能な状態に戻して戦場に送り返す、という結果を必然的にもたらすわけです。そのことの重みを考えない医療活動は、結果として戦争の協力者にすぎない、といったことを言いたかったのでしょう。