近代デジタルライブラリーの55/177コマ。「文学上の事を研究して居ります」と自己紹介した馨少年への、石橋理学士の反応。
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石橋「文学、それは不可(いか)んネ、此頃の様な忙しい社会に斯(か)う気楽な文学者計り殖えられては困る、
(略。この臥薪嘗胆の時節、社会は実用科学に進まねばならんと力説した後)
文学を修めるならば一枝の筆を以て天下の人心を鼓舞する程の事業を仕給へ、気概が無ければ役に立たんよ、世道人心に関せずんば文字美なりと雖も取るに足らん、酢豆腐が甘いとか辛いとか、男と女が辷(すべ)ったとか転んだとか、爾(そ)んな気楽な事を言ふのはモー百年計り後に仕度(した)いネ」
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・・・六年後に、弦斎自身が「豆腐が甘いとか辛いとか」ばっかりの小説を書くとは誰が想像したでしょうか。いや、『食道楽』にも弦斎なりの気概があふれていることは、読むほどによくわかりますけど。
この次の紀行文批判(「大涌谷」)もなかなか面白いので、また続けて書きます。