主人公の東海散士は、必ずしも平和主義に好意的ではないのですが、これもその一例。
一九世紀オーストリアの宰相、メッテルニヒ。この作品では「滅廷日苦」と書いて「メツテルニツク」とふりがながされています。彼が大国オーストリアを衰弱させたと東海散士は見ます。
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蓋し其因を原ぬれば、其地位を保つに汲汲とし、志士の口を拑制し、一に平和を唱へ二に平和を唱へ、主として人民の元気を阻喪せしむるの致す所なり。
(春陽堂『明治大正文学全集 第一巻』 一一六頁
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私も「一に平和を唱へ二に平和を唱へ」る者ですが、「人民の元気」というやつは無視してはいけないと考えています。プラトン『国家』にいう「気概」、ムフのいう「情念」。それをむやみに抑圧するのではなく、戦争以外の方向に逃がす工夫が必要だと考えます。
にしても読みにくい文章です。大意はわかるとはいえ、私の学力ではとてもすらすらと朗読は無理です。今使っている春陽堂の円本はパラルビ注釈なしなので。