いくら大江嫌いでも、これだけ長い小説(『大江健三郎小説 10』一冊にまとめて収録されてます)を一気に読み終えると、それなりに感慨深いものがあります。別にRejoice!とか叫ぼうとは思いませんが、読んでる間は語り手サッチャンにどっぷりと感情移入してたのは事実です。最後に唐突に出てくる原発反対デモ行進のくだりがなければ、そもそも何のために大江健三郎を読んでたのか忘れるところでした。
とりあえず、主要登場人物一覧。
・ギー兄さん 本名、隆。治癒能力を持ち、伝説的な「さきのギー兄さん」を継ぐものとみなされ、「燃えあがる緑の木」教会の「救い主」となる。過激派に属していた過去があり、今もその残党から狙われている。
・サッチャン=「私」 最後まで苗字も名前も定かでない語り手。男性から両性具有(外見的には女性)に転換。「燃えあがる緑の木」の発案者であり、一度は教会を離れるが、ギー兄さんの最大の理解者を自任している。
・K伯父さん あからさまに四国出身の某有名作家な人。ギー兄さんやサッチャンの理解者ではあるが、教会には加わらない。例によって作曲家の息子がいる。意外なとこに別荘が。
・亀井さん ギー兄さんを糾弾する会の代表だったが、事故で片腕を失ったのを機に転回し、教会の主要メンバーとなる。新参外様信者が増えるにつれ、派閥闘争に巻き込まれていく。
その他、親戚一同やら男女信者やら敵対組織やらが大勢出てくるわけですが、正直言って人間関係を把握しきれませんでした。人物関係図と周辺地図が欲しいところです。専門分野なら知らず、大江健三郎のために自分で作るほどの情熱はないのです。
さて作中の原発反対運動についてですが、ギー兄さん一行が原発前で「集中」(祈り)を始めたら原発が事故を起こして停止した、という挿話が第三部「大いなる日に」の結末近くにありまして、報道陣から取材を受けます。
「―阿川原発前の集会で、あなたが祈ったとおりに事故がもたらされた、という件ですが(略)あの事故が大規模な爆発へと連鎖して、発電所の町の、電力を無料で供給されている範囲どころか、もっと広範囲の市民たちを殺し、四国の半分と九州の半分を強力に汚染させるものだったとしたら、どうですか?
(略。ギー兄さんの答えは以下)
…この作品に関する限りは、「燃えあがる緑の木」は教祖から末端信者にいたるまで本当に原発反対派でして、「宙返り」の前編だと思ってよんだのは私の誤解だったようです(「大いなる日」の結末は、「宙返り」とは明らかにつながりません)。
問題はむしろ、「祈り」という手段でして、これについては未読の大江作品をさらに読破した上で、徹底的な考察ないしは批判を試みたいと思います。私の文学観の根幹に関わる問題ですので。