ああ、この本を一日早く読んでおけば!(反実仮想文の一例)
つい昨日(6月4日)のブログで、小林秀雄の「常識」(人工頭脳に将棋は指せないという論)を好意的に紹介してしまったばかりなのですが、反省の意をこめて訂正文を書きたいと思います。「常識」が書かれた1959年(昭和34年)には、すでにコンピューターによるチェスの可能性は示唆されていたのです。『閃け!棋士に挑むコンピューター』の年表および本文の記述を要約します。
1949(昭和24)年 アメリカの数学者クロード・シャノンが「チェスのためのコンピュータプログラミング」論文を発表。「チェスの最終的な目標は、自明といえるほど簡単ではないし、満足のいく解決を得られないほど難しいというわけではない」(シャノン)
1950年代 認知心理学者ハーバート・サイモン、「あと10年でコンピュータはチェスの世界チャンピオンに勝つ」と発言(実際は40年ほどかかりました)
1956(昭和31)年 人工知能(AI)という言葉がアカデミズムの世界ではじめて登場。
1967(昭和42)年 初のコンピュータ・チェスソフトが公開
1974(昭和49)年 早稲田大学、初めての将棋ソフト開発に着手
1980年代 マイコン少年だったアンタルキダス、将棋ゲームを妄想するが、漢字用部品が買えず断念w
1997年 チェス専用コンピューター「ディープ・ブルー」、世界チャンピオンに勝ち越す
後だし情報で申し訳ないのですが、私が1970年代に読んだドラえもん(藤子先生自らの作品ではなかったようです)にも、のび太が弱すぎて将棋ロボがこわれる話がありましたし、1980年代のマイコン雑誌『POPCOM』でも、PC-9801(当時の最高性能機。私のはPC-8001MK2)の将棋ソフトを集めて大会を開いていました。
1959年の小林秀雄発言は、当時の科学水準に無知だったとしかいいようがないのですが、私はそれを責める気にはなりません。
私はCiniiを知らなかった大学教員を知っていますし、クリステヴァを知らないフランス留学生がいるという話も聞きましたが、無知は認めて学べばよいのです。恥ずべきは己の無知を認めない傲慢さです。
ただ、己の甘さを責めるのみです。小林秀雄を読むということは、一時たりとも油断を許さない営みだということ。わが師の教えとともに心に刻んでおきます。