核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎 『日の出島 住の江の巻』 序説

 小林秀雄を読んでいると、本当に文学なんてものが嫌になります。
 同感の方もいらっしゃると思いますので、気分を変えて、私の専門である明治の知られざる新聞小説のひとつをご紹介します。『食道楽』『酒道楽』(岩波文庫)で知られる村井弦斎の最大の長編『日の出島』(新聞連載時は『日の出嶋』。その他異同も多いのですが、ここでは近代デジタルライブラリー版によります)の「住之江の巻」です(1898(明治31)年刊行)。小国日本を救う雲野学士の大発明とは。
 
 「その大発明とは何です」
 雲野「それは世界に向て熱を供給するのだ。即ち石橋君の研究材料を半分借りて太陽の熱を吸収保存し、それを以て今日の石炭や薪炭油電気あるとあらゆる発熱材に代用させるのだ」
 と太陽は実に我邦人にのみ利用されんとす。
 
 続きは 
 の154/177以降をどうぞ。電気その他に代わって太陽光・太陽熱エネルギーが普及する未来(異次元?)の明治社会が素描されております。
 ・・・現代人の眼から見れば、つっこみどころは多々あります。
 一つは、太陽エネルギーの科学的原理らしきものが作中で説明されていないこと。そのためエネルギー革命に伴うリスクも明らかにされず、この作品(『日の出島』全編)をユートピア小説として説得力に欠けるものにしています。
 もう一つは、最後の一行に現れているような国家主義です。地球や人類のためではなく、日本のためだけに(『日の出島』の後半では軍事利用も行われています)新技術を利用しようとするいやしい根性が、この作品にも影を落としています。明治の国家主義者は彼だけではないのですが、だからといって罪が軽くなるものでもありません。一応、「世界人類に大幸福を与える」最終目標も掲げられてはいるのですが、その主体はあくまで日本です。
 けちをつければきりがないのですが、明治文学においてエネルギー革命の問題を正面から扱った小説として、『日の出島』が突出していることは確かです。作者が晩年(第一次大戦期)に絶対平和主義者に転向したこともあって、私にとって村井弦斎は長年気にかかる作家でありつづけています。
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