核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

黒岩比佐子『パンとペン』より 矢野龍渓『新社会』の地道な影響

 都合により、今回の論文には引用できなかった一節です。
 
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 一九〇二年の七月に刊行された矢野龍渓の『新社会』は、社会主義理想小説というべきもので、読者に社会主義について啓蒙する目的で書かれたものだった。政治小説経国美談』で知られる龍渓が、社会改良という視点から社会主義に関心を持ち、それを小説の形で発表したのは不思議ではない。
 『新社会』がわずか半年で二十数版に達したのを見て、政府は動揺せずにはいられなかった。まさにそのとき、『萬朝報』紙上に堺の「社会主義と元勲諸老」の文字が現れたため、政府は社会主義協会の演説会に神経を遣い、厳重に監視し、妨害さえしようとしたのだった。
 矢野龍渓は一九〇二年十一月に、田川大吉郎や加藤時次郎や小栗貞雄らと「社会問題講究会」を結成し、安部磯雄幸徳秋水片山潜国木田独歩なども参加していた。(略)
 こうして、堺は幸徳秋水や他の社会主義者たちと交流しながら、さまざまな文献を読み、社会主義への理解を深めていく。
 『パンとペン 社会主義者堺利彦と「売文社」の闘い』 講談社 2010 105ページ より
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 後にはたもとをわかつにせよ、矢野龍渓日露戦争期の非戦論者たちの縁結び役を果たしていたことは確かなようです。まあ、矢野龍渓と幸徳・堺らには、おたがいに譲れない一線もあるわけですけど。