都合により、今回の論文には引用できなかった一節です。
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一九〇二年の七月に刊行された矢野龍渓の『新社会』は、社会主義理想小説というべきもので、読者に社会主義について啓蒙する目的で書かれたものだった。政治小説『経国美談』で知られる龍渓が、社会改良という視点から社会主義に関心を持ち、それを小説の形で発表したのは不思議ではない。
『新社会』がわずか半年で二十数版に達したのを見て、政府は動揺せずにはいられなかった。まさにそのとき、『萬朝報』紙上に堺の「社会主義と元勲諸老」の文字が現れたため、政府は社会主義協会の演説会に神経を遣い、厳重に監視し、妨害さえしようとしたのだった。
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