そもそも、「明治の平和主義小説」なんてジャンルがほんとに存在したのか。
そんな疑問に答えるべく、さわりの部分を引用してみます。
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「戦争 (いくさ)の一度二度の勝敗 ( かちまけ )は人類の智識上に大関係あるものにあらす、植物志中にて古人未発見 ( みいださぬ )の種類を発見するは其事、大に人類智識上の事に関す」
矢野龍渓『報知異聞 浮城物語』第五十五回「旅団長」『郵便報知新聞』一八九〇(明治二三)年
「僕は面折 ( めんせつ )して直論はするが苟 ( いやしく )も他人の秘密を訐 ( あば )く様なる事は否 ( いや )だ、夫 ( それ )は探偵者流の所為で豪傑の為さゞる所なり」
「緑さん、和女 ( おまへ )も其辺の怪我人を介抱して御遣り、談話 ( はなし )は跡 ( あと )で緩 ( ゆつく )り出来るから、マー少しでも此病人達の苦痛を薄くして遣り度 ( た )ひものだ」
村井弦斎 「匿名投書」第二十回『郵便報知新聞』一八九〇(明治二三)年七月三十一日
「腕力も時によるサ、我輩が正当の武器は只此の舌あるのみサ」
遅塚麗水 「電話機」第十『郵便報知新聞』一八九〇(明治二三)年九月二十三日
横山は如何にも金力と云へる語を冷笑せる如き口気にて「金力なんぞ何だ、我が一拳の下に張り飛ばして見せる」村田も冷笑し「左様は不可ん、世中は金力第一、腕力第二、道理の如きは其次に位すべきものだ」主人奈麻利は徐かに口を開き「両先生、其所にまだ一層強い勢力がありませふ、」村田は不審「是れよりも強い勢力とは」奈麻利は渾然と笑ひ「小説眼を以て視ると世中に婦人の勢力ほど強いものはありません」 村井弦斎 「小説家」
「世間の継子苛めと云ふ事は全く動物性の自然でせう、継子を愛育すると云ふ事は人間性の高尚な愛情でなければ出来ません」
村井弦斎 『釣道楽』「人と禽獣」『報知新聞』一九〇一(明治三四)年一二月二〇日
「目的 ( めあて )の外た敵討は詮ない事と存じますれば唯今スツパリと思切り其望は止 ( やみ )ました」
福地桜痴 『女浪人』 第五回 一九〇四(明治三七)
「力を以て来る者には、ただ温順を以て接するしか無いでせう」
木下尚江 『火の柱』一九〇四(明治三七)
「諸君、今両国政府が急ぎつゝある日露戦争に対して吾人は全然反対せねばならぬ、特に日本人の一人として絶対的に反対の意を明白にせねばならぬ」
木下尚江『良人の自白 続編』(十八の二)『毎日新聞』一九〇六(明治三九)年四月七日
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・・・WORDからコピペしても、ふりがなはつけられないことが発覚。