核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

トルストイ 『戦争と平和』 その3 ピエール自重しろ編(仮)

  中村白葉訳。河出書房『カラー版 世界文学全集 第19巻 トルストイ 戦争と平和1』1966(昭和41)年。原著1869年。
 今回は第2巻(254ページ以降)。ナポレオンとの「戦争」がひとまず終わり、心に傷を負ったアンドレイたちの「平和」が語られます。
 アンドレイ公爵は、民衆を強制的に戦争に駆り出す仕事を積極的に果たすことで、再度の戦場行きを逃れようとします。ノーブレス・オブリージュ?何それ。昔はもっと良心的な人だったのですが、今では民衆への思いやりなどなくしてしまったようです。
 そしてもう一人の主人公、戦争に行かず、莫大な遺産を相続し、美人の妻エレンを得たピエール。勝ち組もいいとこですが、妻のドーロホフ(かつての悪友)との不倫や、ドーロホフを決闘で殺しかけた事件で苦悩していました。
 マソン(「自由な石工の組合」)なる秘密結社の理念に共鳴し入会するピエール。308~313ページには、「自由な石工」の教義および入会儀式が詳細に書かれています。いろいろとやばくないかトルストイ
 白樺林で再会するアンドレイ公爵とピエール。マソンの理想を熱く語るピエールを冷笑しつつも、アンドレイは戦争以来眠っていた何かが目覚めるのを感じます。
 
   ※
 アンドレイ公爵は、老公爵(引用者注 アンドレイの父ニコライ)が夢中になってピエールを相手に議論を戦わせているのを発見した。ピエールは、戦争のない時代が必ずくることを証明していた。老公爵は腹を立てている様子は少しもなく、からかい半分にその所説を反駁していた。
 「人間の血管から、血を出して水を入れるがいい。そうすりゃ戦争もなくなるだろう。女の寝言だ、女の寝言だ」
  第2巻 第2編 340ページ
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 賛成はしないまでも「火をつけられた」公爵親子、特にアンドレイ。領民の生活にも気を配るようになります。
 1809年、ナポレオンと講和したロシア帝国自由主義改革の風が吹くと、理想を国家レベルで実現すべく、アンドレイとピエールは首都ペテルブルグに出ます。
 そこに現れたのが、ロストフ伯爵家の清楚な令嬢ナターシャ。アンドレイは一度はナターシャと婚約するのですが(再婚)、ナターシャの過ちを許せず破棄します。失意のナターシャに急接近するピエール。
 1812年の巨大彗星をピエールが見上げる場面で、第2巻(日本語版1冊目)は終わります。
 はたして戦争のない時代はくるのでしょうか。
 次回、『戦争と平和』その4。ご期待ください。