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「将軍」は? この将軍は、惨めにも手痛く嘲笑され諷刺されてゐる。この「長者らしい」将軍の軍服を剥ぎ取りながら、作者は無智で残忍で打算的な将軍の裸体に冷笑的な嫌悪を示してゐる。軍神の封建的な非人間性に顰蹙してゐる。それはいかにも巧みな抉出的な手法に終始してゐる。そして私は、作者のこの手際に喝采を与へようとしたが、やつぱり次の瞬間、それを想い止まらなければならなかつた。何故か。私はこの作品の全体的な構図に根本的な欠陥を発見させられたからだ。将軍と対蹠的に描かれた軍参謀に、スタンダールの箴言やユーゴーの歌を想起さしてゐる内に、作者は彼も亦軍人(引用者注 原文は傍点)であることを忘れてゐる。そしてそれはモティーフに小ブルジョア的な限界性を持つてゐるからだ。
(二三五ページ)
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2019・2・26追記 (二三五ページ)とあるのは『改造』ではなく、収録された本のページ数でした。いずれ『改造』の原文を見て正しいページ数に直します)