核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

芥川龍之介『河童』の書籍工場

 大正~昭和戦前期あたりで、小説の自動作成を扱った文献はないものか。ふと芥川龍之介の『河童』の一節を思い出し、青空文庫で再読してみました。河童の国の書籍工場にて。

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 何でもそこでは一年間に七百万部の本を製造するさうです。が、僕を驚かしたのは本の部数ではありません。それだけの本を製造するのに少しも手数のかからないことです。何しろこの国では本を造るのに唯機械の漏斗形の口へ紙とインクと灰色をした粉末とを入れるだけなのですから。それ等の原料は機械の中へはいると、殆ど五分とたたないうちに菊版、四六版、菊半截版などの無数の本になつて出て来るのです。僕は瀑のやうに流れ落ちるいろいろの本を眺めながら、反り身になつた河童の技師にその灰色の粉末は何と云ふものかと尋ねて見ました。すると技師は黒光りに光つた機械の前に佇んだまま、つまらなさうにかう返事をしました。
「これですか? これは驢馬の脳髄ですよ。ええ、一度乾燥させてから、ざつと粉末にしただけのものです。時価は一噸二三銭ですがね。」
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 小説のではなく書籍全般の製造機でした。驢馬(ろば)なみの頭でも本を出せる時代になったという、風刺なのでしょう。

 これを円本ブームへの風刺と見る先行論文もありましたが、時期的にどんなものでしょうか。改造社現代日本文学全集しか出てない時期(1926年3月)ですからね……。