核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

高橋新吉「神」(『辻詩集』収録)

 太平洋戦争期、建艦運動のさなかに編まれたらしく、「軍艦を造ろう」「献金しよう」「供出しよう」の詩が目立つ『辻詩集』で、異色の詩がこれ。

 

   ※

   神      

          高橋新吉

 此の現実の生活を知り尽くして

 初めて過去の事もわかるのである。

 神とは過去である。

 現実とのつながりを持つ度合の強弱に依つて

 神は偉大であり、卑小である。

 現実とは自己である。

 人各々異つた過去を持ち、異つた未来を持つてゐるのである。

 現実に最も好く生きるものこそ、神の心を生きるものである。

 (『辻詩集』二二八~二二九頁)

   ※

 

 戦争協力・・・・・・なのかこれ?検閲官も首をひねったのではないでしょうか。

 「神」=天皇のことだとすると、「卑小」はまずいだろうし。どうも『辻詩集』というコンテクストなしには、戦争協力の詩とは読めそうにありません。

 かといって戦争への抵抗の詩だとか、ダダイスト新吉が矜持を見せたと読むのも無理がありそうです。私としては、内容に乏しい抽象的な詩だとしか評価しようがありません。凡百の戦争便乗詩よりははるかにましですが。