太平洋戦争期、建艦運動のさなかに編まれたらしく、「軍艦を造ろう」「献金しよう」「供出しよう」の詩が目立つ『辻詩集』で、異色の詩がこれ。
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神
此の現実の生活を知り尽くして
初めて過去の事もわかるのである。
神とは過去である。
現実とのつながりを持つ度合の強弱に依つて
神は偉大であり、卑小である。
現実とは自己である。
人各々異つた過去を持ち、異つた未来を持つてゐるのである。
現実に最も好く生きるものこそ、神の心を生きるものである。
(『辻詩集』二二八~二二九頁)
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戦争協力・・・・・・なのかこれ?検閲官も首をひねったのではないでしょうか。
「神」=天皇のことだとすると、「卑小」はまずいだろうし。どうも『辻詩集』というコンテクストなしには、戦争協力の詩とは読めそうにありません。
かといって戦争への抵抗の詩だとか、ダダイスト新吉が矜持を見せたと読むのも無理がありそうです。私としては、内容に乏しい抽象的な詩だとしか評価しようがありません。凡百の戦争便乗詩よりははるかにましですが。