これは全く読者の先入観なぞ許さぬ本だ。ヒットラー自身その事を書中で強調してゐる。先入観によって、自己の関心事の凡てを検討するのを破滅の方法とさへ呼んでゐる。
そして面白い事を云つてゐる。さういふ方法は、自己の教義に客観的に矛盾する凡てのものを主観的に考へるといふ能力を皆んな殺して了ふからだと言ふのである。彼はさう信じ、さう実行する。
これは天才の方法である。僕はこの驚くべき独断の書を二十頁ほど読んで、もう一種邪悪なる天才のペンを感じた。僕にはナチズムといふものが、はつきり解つた気がした。それは組織とか制度とかいふ様なものではないのだ。寧ろ燃え上る欲望なのである。
ユダヤ人排斥の報を聞いて、ナチのヴァンダリズムを考へたり、ドイツの快報を聞いてドイツの科学精神を云つてみたり、みんな寝も葉もない、たは言だといふ事が解つた。形式だけ輸入されたナチの政治政策なぞ、反故同然だといふ事が解つた。
ヒットラーといふ男の方法は、他人の模倣なぞ全く許さない。
(「邪悪なる」ではなく「決して誤たぬ」天才とヒットラーを評価)