『新潮現代文学39 雲の墓標・米内光政』(新潮社 1979(昭和54)年)より。
阿川佐和子のお父さんで、童話『きかんしゃ やえもん』の作者でもあります。
で、『米内光政』ですけど、小説と呼ぶにはエピソードをだらだら並べるだけで面白みに欠け、資料集としては個々のエピソードの出処が定かでないため、以前紹介した杉本健の著作に見劣りします。
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米内のメモには、
「独伊は何故日本に好意を寄せんとするか、好意といふよりは寧ろ日本を乗じやすき国としてこれに接近し、己が味方に引き入れんとするにあらざるか、最も冷静に考慮せざるべからず」
「ヒットラーは人種問題に関し、ドイツ民族絶対至上論者であって、日本人のことを、想像力の無い劣った民族、しかし小器用で自分らの手足として使うには便利な国民だと言っている。ドイツは日本をこう見てるんだぞ」
と言い、手書きの抄訳抜萃(ばっすい)を部内に配らせたりした。
「そうかな」
軍令部のある少佐が不思議がり、
「俺も本屋で買って来て読んでみたけど、そんなこと書いてなかったぞ」
と言って、
「井上さんは日本語版で読んでるんじゃないよ」
と笑われた(「マイン・カンプ」の日本語版には、日本民族蔑視の部分が抜けている)
(略)次官の山本五十六は、
と、憤慨にたえぬ調子で言っていた。(239~240ページ)
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私もドイツ語はできませんけど、戦前の訳と戦後のを国会図書館で読み比べました。だから、室伏訳で読んで、ナチズムをすっかり理解できた気になったりしてはいけなかったのです。
『我が闘争』は禁書にしている国も多いそうですけど、私はもっと広く読まれ、冷静に分析されるべきだと思っています。あやまちを繰り返さないために。