核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

虚構論

伊藤整氏の精確な意見。

伊藤整『日本文壇史3』(講談社文芸文庫 1995)を読んでいて、これはという論に出会いました。1892(明治25)年の、山田美妙が文壇から総攻撃された件について。 ※ 諸方から攻撃されて以来、美妙の悪口さえ書けば批評文の形が整う、という風潮が…

元号批判論

何度も書いたように私は無神論者であり、イエスが神の子であるとも、天皇家がアマテラスの末裔であるとも、ムハンマドがアッラーの預言者であるとも信じておりません。にもかかわらず、私が論文やブログで西暦年を主に使用し、元号は文脈上必要な場合にのみ…

ジャンルに上下なし。作品に上下あり。

二日間も休んでしまったことをお詫びします。大きな文字では書けないのですが、テレビゲームに没頭しておりまして。 いや、私はテレビゲームというジャンルを、たとえば映画よりも下に見ているわけではありません。すぐれたゲームは、ヌーベルバーグ映画なん…

夏目漱石の限界。

前にも書きましたが、私は卒業論文で『夢十夜』を、修士論文で『明暗』を、博士課程入学試験論文で『坑夫』を扱ってきました。その私がなぜ漱石に見切りをつけたか、手短かに実例をあげて説明します。 ※ どうしても腕力でなくっちゃ駄目だ。成程世界に戦争は…

差別と笑い

差別を生み出す原因の一つに、安直な方法で笑いを取りたがる傾向、というのがあります。 時の政権担当者。そろそろ飽きられだした有名人。評判の悪い国出身の在留外国人。そうした、叩けば確実に世間が同調する対象を「ネタ」にすれば、どんなに拙劣なジョー…

自我の共存をめざす文学

夢の中で論文の続きを書いていたら、「自我の主張ではなく、自我たちの共存をめざす文学」という一節を思いつき、はっと目が覚めました。 夢での思いつきが実際に役に立った例はほとんどないのですが、これは例外かと。「平和主義小説」の最も簡潔な定義とい…

奇想の画家Rob Gonsalves

エッシャーやマグリットの系譜を継ぐ超現実画家、Rob Gonsalvesを紹介します。 ・・・といいたいところですが、リンクフリーのサイトが見つからなくて。"Gonsalves"で画像検索をお願いします。 発想の奇抜さもさることながら、子供のとほうもない空想を、強…

松野翠(木下尚江) 「龍渓氏の『新社会』」

松野翠 「龍渓氏の『新社会』」上下 『毎日新聞』 一九〇二(明治三五)年七月九・一〇日 (上) 「余の尚ほ中学に在るや『論語』の時間を以て窈に『経国美談』を(糸番)き為めに老教師の大叱責を蒙りたることは今に及んで忘れざるなり 龍渓先生の名は、余…

20、虚構湊合論(矢野龍渓)

余は彼の有名なる文学家ワルテル、スコツト氏が「小説は不善ならぬ娯楽(たのしみ)を世人に興る者なり」との語を以て当れりとせん、事実を其儘に記載すれば小説に非ず歴史なり、風教を主として娯楽を興へざれば小説に非ず道徳書なり、世にあり得可き事柄を…

19、強い虚構実現論(村井弦斎≒筆廻舎奈麻利)

19、強い虚構実現論(村井弦斎≒筆廻舎奈麻利) 「古往今来何れの時か欠陥世界ならざらん、自ら造らずんばユトーピヤ無し」 (村井弦斎 『小説家』 郵便報知新聞 一八九一・一・一三) ・・・我が尊敬する小説家、村井弦斎の作品『小説家』の作中の小説家、…

18、虚構実現論(アンタルキダス)

18.虚構実現論(アンタルキダス) 一度虚構作品の形で現れたものは、いつ実現してもおかしくない。 まず、現実と虚構の境界をどう考えるかです。私はこの現実世界は実在すると思っていますし、実在するものと実在しないものとの間には確かな境界線が存在…

三浦俊彦 『虚構世界の存在論』 勁草書房 1995 その2

昨日(http://blogs.yahoo.co.jp/fktouc18411906/6454448.html)に引き続き、『虚構世界の存在論』を紹介します。 予告では私自身の虚構論を論17として披露するはずでしたが、かんじんの三浦氏の結論を書き落としていたので、先にそちらを要約します。 1…

三浦俊彦 『虚構世界の存在論』 勁草書房 1995 その1

小説の中の人とは異世界人なのか。それとも広い意味でこの世界の住人なのか。そんな疑問に答える一冊。 とりあえずの心覚えに、第四章の「諸説概観」の見出しを書き写してみます。 1、記述理論(ラッセル) 虚構的存在なるものは指示対象ではない。虚構名は…