核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

2021-01-01から1年間の記事一覧

論文、軌道修正

「文学の終り」とか「小説の終焉」といったあやふやな言説とはきっぱり縁を切って、福地桜痴の『女浪人』論に専念したほうがいいような気がしてきました。 今日一日かけて考えをまとめてみます。

文学の終焉の終焉

『近代文学の終り』とか『小説の終焉』という本が出たのは二〇〇四年のことでした。 今回書く論文では、それらに対して、「文学は終っていない!」と声高に訴えるつもりだったのですが。 近年(二〇二〇年前後)の文献を読むと、どうも文学の終りといった論…

蹄鉄理論、極右と極左の類似

当ブログは、おとといは大江健三郎の中国賛美を批判し、昨日は北原白秋の戦争詩を批判しました。おまえは右翼か左翼かどっちなんだ、と問われた時のために応えておきます。どちらでもなく中道であると。そして、お互いに激しく罵り合う極右と極左というのは…

北原白秋「ハワイ大海戦」(一九四二)

「幻冬舎新書 日本の軍歌」というサイト ハワイ大海戦 (sakura.ne.jp) で全文読めますので、今回はコピペはしません。『読売新聞』一九四二年一月一日版と『大東亜戦争少国民歌集』(一九四三)版のいずれも、 「我あり、望む大東亜」 (後者では「我あり、…

日本人民共和国を熱望する大江健三郎

大江健三郎の『人民日報』一九六〇年六月二六日の発言。 「遠くない将来、必ずこんな日が参ってくる―日本人民共和国の旗が、中国人民共和国の旗といっしょに翻る日が!このような日はもう遠くない。このような未来はもう明日と同じように近づいてきた。これ…

大橋裕美「榎本虎彦の劇作法―『経島娘生贄』における「趣向」と「作為」」(『演劇学論集』 二〇〇七)

近代日本文学に少しばかり通じている以外は、私は何のとりえもない人間でして。 数多い苦手なジャンルの一つに、歌舞伎があります。テレビで観たことさえありません。で、ちょうど榎本虎彦作、中村芝翫主演の、『女浪人』の二年前に同じ歌舞伎座で上演された…

M・ウォルツァー『正しい戦争と不正な戦争』(風行社 二〇〇八(原著一九七七) 予定)

ずいぶん古い本ではありますが、いまだに読んでいませんでした。 論敵である「正戦論」を知るために読んでおきたいところです。AMAZONでは高めなので、たぶん国会図書館で……。

北原白秋「脱退ぶし」

戦争に甘美さを感じる人がいるなどと、まじめな平和主義者には信じがたいことかも知れません。明治大正や昭和初期の文献を読みなれた者には自明のことなのですが。 一例として、北原白秋が日本の国際連盟脱退(一九三三)時に詠んだ、「脱退ぶし」の一節を。…

絶対平和主義の奇手・妙手

「戦は経験のない者には甘美だが、体験した者はそれが迫ると心底から恐怖を覚える」というピンダロスの詩文が、松元雅和『平和主義とは何か』の巻頭に引用されています。後半(戦争の恐怖)はしばしば語られるところですが、前半(戦争の甘美さ)についての…

坂井米夫『ヴァガボンド・襄』(板垣書店 一九四八) その2 「裕仁さん」より

ヴァガボンド襄こと坂井米夫が、原爆投下前に書いた降伏勧告文「裕仁さん」は三四四~三五四の十頁に渡り、日本語反戦文学の最高峰と呼びたくなる力作です。内包された読者に届かなかったことが残念でなりません。 アメリカの威を借りて戦争責任を弾劾告発す…

坂井米夫『ヴァガボンド・襄』(板垣書店 一九四八) その1

この資料は私が発見したわけではなく、坪井秀人先生の『二十世紀日本語詩を思い出す』(思潮社 二〇二〇)の三四五~三五七頁より学ばせていただいたことをお断りしておきます。 在米日本人、坂井米夫が戦後まもなくに刊行した半自伝的小説。太平洋戦争下に…

歌舞伎『女浪人』中の土方歳三

近藤勇とくれば土方歳三。歌舞伎『女浪人』では該当する役を、二代目市川猿之助が演じ、述懐しています。 ※ 今度の歌舞伎座では辻形由蔵(つじかたよしざう)といふ役ですが、あの伏見町の戦争の場で、薩州方と大いに戦つてみんなを斬つてしまふといふ勇まし…

福地桜痴、近藤勇と立ち合う

『燃えよ剣』映画化に便乗して、新選組ネタを一つ。 ※ 或時近藤勇が福地に向ひ『君は洋学出身の人に似合ず剣道の嗜みが有ると〇〇〇が咄して居た、一本願はうぢや無いか』と云ふから居士は一向に剣道の心得が無いと弁解したが近藤は中々承知を仕無い、『他の…

榎本虎彦『桜痴居士と市川団十郎』(一九〇三)

『女浪人』の脚色者が原作者を語った書。『女浪人』への言及は見つかりませんでしたが、前から探していた逸話の記事が見つかりました。 主人公不要論と弦斎論。語り手は福地桜痴です。 ※ 劇(しばゐ)には主人公が不必用 今の文学者は二言目には此劇には主人…

鬱にも負けず

軽い鬱状態だったり脚がつったりしましたが、なんとか『女浪人』論を七割がた書き上げました。

中村芝翫(なかむらしかん)

一九一一(明治四四)年六月の歌舞伎『女浪人』で主演したのは、五代目中村芝翫(1866~1940 1911年11月に五代目中村歌右衛門を襲名)でした。 その中村芝翫の八代目が、NHKドラマ『晴天を衝け』に岩﨑弥太郎役で出演しているそうです。最近テ…

スポンサーが強力すぎると

歌舞伎『女浪人』には、原作には出てこない西園寺公望(さいおんじきんもち)をもじった名前の公卿が出てきます。上演当時の前総理大臣であり、二か月後にまた総理になる大物政治家です。で、 ※ 歌舞伎座の一番目で羽左衛門が西園寺侯に扮するにつき侯の平生…

ハッチオン『アダプテーションの理論』(晃洋書房 二〇一二)

ブラッドベリの発言をコピーしそこねたのは痛恨のミスでした。 コピーした部分からこれはという箇所を。 ※ フォルマリズムの批評家、新批評家、構造主義者、ポスト構造主義者らが一様に半世紀にわたって芸術家の意図と解釈との関連性を批判的に放棄してきた…

柄谷行人『柄谷行人の現在 近代文学の終り』(インスクリプト 二〇〇五)

かつては柄谷氏を尊敬していたこともあったんだけど(『探究3』のころは)、この本には賛同できませんでした。 ※ 写真が出現したとき、絵画は写真ができないこと、絵画にしかできないことをやろうとした。それと同様のことを、近代小説は映画が出てきたとき…

川西政明『小説の終焉』(岩波新書 二〇〇四)

二葉亭四迷の『浮雲』(一八八七~九一)から約百二十年。敗戦をはさんで前期六十年と後期六十年。『浮雲』以来の小説の主題は書き終えられたというご主張です。 いくつもの「〇〇の終焉」の中に、「戦争の終焉」と題する章もありましたが、戦争そのものがな…

歌舞伎『女浪人』同時代評

『都新聞』一九一一(明治四四)年六月二十四日三面。 青々園「歌舞伎座の六月」。 「一番目の「女浪人」は維新の大政返上から伏見の戦争までをスラ〱と書いたもので謂はゆる「女浪人」といはるゝ芝翫の仲居お信が主人公のやうではあるが、芝居としてはアツ…

内藤千珠子『帝国と暗殺―ジェンダーからみる近代日本のメディア編成』(新曜社 二〇〇五)

最近、管野須賀子がちょっと気になってまして。彼女が何を書いたかもさることながら、彼女がどう書かれたのかも。 で、「明治天皇を暗殺しようとした女」についての当時の記事とその考察を求めて、内藤著をひもといたわけですが。 さぞかし「病気」や「魔性…

今回第一の収穫

今回の調査旅行の眼目は、歌舞伎『女浪人』についてでした。 まず脚色者(てかアダプテーション?リライト?)は、福地桜痴の弟子だった榎本虎彦(号は破笠。1866~1916)と判明。『歌舞伎』133号より。 お信を演じた中村芝翫(なかむらしかん。…

長い旅から帰ってきました

福地桜痴『女浪人』関係の文献をはじめ、論文とブログのネタをたっぷり仕入れてきました。

今日の更新はお休みします。

すみません。

幸徳秋水「遠征」をめぐる雑感

昨日は休んでしまいすみません。 「遠征」について書きたかったのですが、伊勢田論の読み込みに時間がかかってしまいました。ここしばらくは私の雑感ということで。 「遠征」が反戦小説か否かは別として、この作品は私が近来考えてきた、「チキンホーク」や…

遅塚麗水「電話機」研究にまた新たな展開?

大道晴香氏という方が、以下のような研究をなさっておられるようです。 ※ 「電話」と「死者」, 大道晴香, 國學院雑誌, 122, 6, 2021年06月15日, 國學院大學 電話、その宗教的なるもの : 近代メディア機器をめぐる宗教的リアリティーについて (第71回学術大会…

幸徳秋水が書いた小説「遠征」

幸徳秋水という名を出すと、左右を問わず「あの大逆事件の」と身構えてしまう方が多いとは思いますが。これは日清戦争期に彼が書いた戦争小説です。 『家庭雑誌』一八九四(明治二七)年、第三七号付録。以下、あらすじを。 明治二七年九月〇〇日。日本軍ま…

内田樹「マルクスはいいぞお」の支離滅裂

マルクスの是非はおくとしても、以下の文章はそれだけで誤っています。 マルクスはいいぞお - 内田樹の研究室 (tatsuru.com) より引用。 ※ 私は社会理論としてのマルクス主義の政治的有効性にはひさしく懐疑的であるが、カール・マルクスというひとの天才的…

内田樹「私と資本論 自由に読み、語れる言論環境」への批判

まず、内田樹(うちだたつる)氏の文章を引用します。 私と資本論 内田樹さん - 「しんぶん赤旗」 (jcp.or.jp) より転載。 ※ 私たちの『若者よマルクスを読もう』は中国語訳されて、中国共産党の「党幹部必読図書」に指定された。申し訳ないような話だが、そ…