核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

#倫理学

外池力「トドロフの思想と他者系列」(『政経論叢』 77(5・6), 749-775, 2009-03 )

トドロフという方、ただの構造主義者ではありませんでした。思想家です。 外池論文より、スターリン主義(全体主義)について。文中の「コルイマ」とは、アウシュヴィッツに匹敵するスターリン政権下の強制収容所だそうです(ウィキペディアより。不覚にも最…

兵備の平和と真正の平和

百年以上前、福地桜痴はこう書きました。 ※ 欧州今日の平和は真正の平和に非ず兵備の平和なるのみ 一八八四(明治一七)年一〇月二日『東京日日新聞』社説「欧州の侵略主義」 ※ 軍事力の均衡による平和など、「真正の平和」の名に値しない、という趣旨です。…

壺井繁治「頭の中の兵士」(『戦争に対する戦争』(一九二八)

反戦小説集『戦争に対する戦争』の、最後に収録された短編。 反抗的な兵士が憲兵に頭を撃たれると、頭の中から小さな兵士たちが現れ、近くの建物に去っていくという話です。今のところ意味不明ですが、戦争に対する暴力的抵抗を扱った同書の中では、小川未明…

シャンタル・ムフ『左派ポピュリズムのために』(明石書店 二〇一九)その1

山本圭・塩田潤訳。 この本はいずれ何度も読み、何度も感想を書くことになると思うので、今回は簡単にします。 まず章立て。 序論 1 ポピュリズム・モーメント 2 サッチャリズムの教訓 3 民主主義を根源化すること 4 人民の構築 結論 付録 謝辞 原注 訳…

次は何をしたものか。

芥川論がまだ半分にも達していないのにですが。 昭和初期の『戦争に対する戦争』に手をつける前に、これまでの反戦文学の総まとめというか、振り返り的な論を書いてみたいと思っています。 星一は、村井弦斎は、武者小路実篤は、賀川豊彦は、そして芥川龍之…

ソフトウェア面からの反戦論

「核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ」という看板を掲げてきて、おろす積りはありませんが。 ここ最近(2019年)は、ハードウェアよりもソフトウェアからの反戦に関心が移っています。 芥川の「将軍」にも、確かに二八珊砲や軍刀の恐ろしさは描…

将軍のいない国家はない。

日本書紀によれば崇神天皇の代。春秋時代の中国にも、古代ギリシアにも、将軍に相当する職は存在しました。 国家の意志を体現し、国民を兵士化して戦わせる戦争遂行機関。 にも関わらず、将軍分析とでもいうべきものは余りにも少ないと思うのです。 芥川龍之…

被害者研究よりも加害者研究

たとえばひき逃げの被害者をいくら分析し、あるいは追悼しても、それだけではひき逃げはなくなりません。 ひき逃げをやった加害者をきちんと逮捕し、分析することなくして、ひき逃げ再発は予防できません。 戦争についても同じことが言えます。戦争の犠牲者…

非暴力型抑止力の展望

非暴力型抑止力が実現するとしたら、それはいかなる形をとるか。展望とも妄想ともつかないよた話を。 私の見込みでは、どうもハードウェアよりソフトウェアのほうに期待が持てそうです、ガンダムのミノフスキー粒子のような、長距離ミサイルを無力化する発明…

戸締りと軍備の違い

戦後の一時期、「戸締まり論」が流行ったそうで。他人の「公正と信義に信頼して」自宅に鍵をかけない人はいない(私も厳重に戸締りしてます)、それと同じように日本も再軍備するのが当然だと。現在でもそのように考えている人はいるかも知れません。 私はつ…

今年の課題。

おおみそかにも書きましたが、今年は「非暴力型抑止力」の理論化を今年の課題にしたいと思います。 新年そうそう縁起の悪い話ですが、人類ははるか太古から、暴力に対して報復の恐怖をちらつかせることで、暴力を抑止するという習慣に慣れ過ぎてきました。木…

来年の展望―非暴力型抑止力の構築にむけて

非暴力・非武装型平和主義の弱点は、暴力への抑止力を持たないことだと、ここ数年考えています。 抑止力があればいいというものではありません。軍事力による抑止力は、他国にとっては脅威となり、最終的には抑止力どころか戦争の引き金になりかねないという…

大賀哲「「テロとの戦争」と政治的なるものの政治学―シャンタル・ムフの国際政治思想への展開」 その4

ムフは普遍(universe)に対して多遍(pluriverse)を提示し、その方向からブッシュJrの「テロとの戦争」を批判します。 「文明/テロ」というブッシュJrの二分法は、一見シュミットの「友/敵」に似ているように見えて、そうではないとムフは論じます。相…

大賀哲「「テロとの戦争」と政治的なるものの政治学―シャンタル・ムフの国際政治思想への展開」 その3

「政治的なるもの」を忘却しているという理由で、ムフは各方面の政治思想を批判します。 特にロールズへの批判に一節を割いているわけですが、当方がロールズに詳しくないこともあり、この節の検討は後日に廻させていただきます。代わりに数日前に『マルチチ…

大賀哲「「テロとの戦争」と政治的なるものの政治学―シャンタル・ムフの国際政治思想への展開」 その2

まず、ムフ独自の用語である、「政治的なるもの」(the political)について。 ムフは一冊まるごと『政治的なものについて』なんて本も出してますが、一言で表現すると「対立」といったあたりになるかと。星新一ならひらがなで「ごたごた」と表現したかも知…

大賀哲「「テロとの戦争」と政治的なるものの政治学―シャンタル・ムフの国際政治思想への展開」 その1

『政治思想研究』二〇〇七年五月。副題の通り、ムフの国際政治思想についての論です。 辛めの評価も含めて、ムフを学ぶ者にとってはためになる論文です。 「はじめに」では、九・一一(二〇〇一年の航空機による大規模テロ事件。あれから二十年近くも経つん…

ムフもなあ……

私はここ数か月、ご承知のようにシャンタル・ムフという政治思想家に入れ込んでいるのですが。 蜜月時代を過ぎると、粗が見えてくるものです(だんなのラクラウ氏に怒られそうだ)。大戦略としてはムフの闘技的民主主義に賛成なのは変わらないのですが、ムフ…

ムフ『左派ポピュリズムのために』(明石書店 近刊 予告)

ムフ先生の新作が読める!のはいいのですが、少々戸惑わせる題名です。 「左派ポピュリズム」?ウィキペディアで下調べしたところ。 ※ 左派ポピュリズム(さはポピュリズム、英: Left-wing populism)は左翼政治とポピュリストのレトリックや主張とを結びつ…

チキンホーク列伝3 柳田国男

戦争に駆り出されたくなかったら、愛国者のふりをするに限る。そういう精神構造の話です。 ※ そのうち日露戦争になり、いつ召集されるかも知れないというので、戦争に関係のある仕事をしている方がよかろうということになり、捕獲審検所に出ることになった(…

チキンホーク列伝2 夏目漱石

自らは徴兵を逃れていながら、他者に対して「戦争に行け」と命ずる者たち、それがチキンホークの定義です。博士論文第八章より再掲。 ※ 太陽にある大塚夫人の戦争の新体詩を見よ、無学の老卒が一杯機嫌で作れる阿呆陀羅経の如し女のくせによせばいゝのに、そ…

チキンホーク列伝

自らは徴兵逃れをしていながら、自分が安全になった後年に好戦主義者となった実例を三名。 博士論文第七章より転載。 ※ ヒトラーは申告、登録しなかっただけでなく、一九一〇年も一一年も一二年も検査をうけなかった(略)彼は二重の罪に問われることになっ…

チキンホークの典型、西部邁『戦争論』

西部邁『戦争論―暴力と道徳のあいだ』(ハルキ文庫 二〇〇二)という本は、メインタイトルよりもサブタイトルにひかれるものを感じてずっと前に購入したのですが、満足のいくものではありませんでした。 戦略論を欠いた「日本人が、総体として、戦略にかんし…

戦争嫌いと平和主義の間

以前に芥川龍之介の「将軍」論を書こうと決意し、先行研究は一通りそろえたのですが、どうも気が進みません。その理由をぐだぐだ書いてみます。 芥川龍之介ないし「将軍」の思想は、情緒的な「戦争嫌い」にすぎず、倫理的な「平和主義」の域に達していないの…

中公新書編集部編『日本史の論点 邪馬台国から象徴天皇制まで』中公新書 二〇一八

清水唯一郎「第4章 近代」中の問題提起。 ※ もちろん、それ(引用者注 戦死・戦傷者の増加)は同時に反戦論をも呼び起こす。日露戦争に際して内村鑑三や幸徳秋水ら知識人が非戦論を展開したことはよく知られている。しかし、彼らの主張が大きな広がりを見せ…

「話せばわかる」でも「問答無用」でもなく―我がムフ読解

あくまでも、「私はムフをこう読んだ」というレベルの話ですが。 「話し合えばみんなわかりあえる」というハーバーマス的な民主主義観は、ムフにとっては楽観的にすぎるわけです。話し合ってもわかりあえない、「われわれ」に還元されない異質な他者というの…

次にムフを読む時は。

以下の点に注意して読んでくるつもりです。 ・闘技的民主主義のルールを守らない者(独裁国家・テロリスト・重犯罪者・カルト宗教等)にどう対処するか? ・闘技的民主主義のルールを守れない者(幼児・新生児等)に対しては? ・ムフは平和主義をどう考えて…

峻別しない。

「世界は一家、人類はみな兄弟」的な思想は、どうも私にはなじめないものがあります。 (毛沢東やポルポトを兄弟とみなせるでしょうか?) かといって、友と敵を峻別するシュミット的な思想は、平和主義者である私にはもっと受け入れがたいものです。「敵は…

矢野龍渓「不必要」再論―軍備による平和論の陥穽

交通と情報流通の進歩が世界平和をもたらすと、小説「不必要」(一九〇七(明治四〇))の主人公は楽観的な平和論を語ります。 ※ 此れ程ど交通が日々に発達すれア、各国の人民同志が懇意にならずにア居られない。 (略。各国の議員、労働者、新聞記者、商業…

「どうやって?」に答える平和主義

アリストパネスや村井弦斎は、「どうやって戦争を止めるのか?」という問いに、「女性の力によって」と答えました。 星一は「薬の力で」、賀川豊彦は「(空中や宇宙への)移民で」と答えました。 空想的であるとか、批判はいくらでも可能だとは思います。が…

平和主義の二源泉

『平和』のヒュポテシス(古伝梗概)に、次のような記述があります。 ※ このように今度もまたこの劇によって、戦争がどれだけ多くの禍いを作り出し、平和がどれだけ多くの幸いを作り出すのかを示し、人々が平和を望むようにと促す。また、平和について忠告し…